悪夢、サティ、白百合の乙女

もういつの事だったからすら解らない。最後にお風呂に入ったのはいつなのか、ちゃんと歯磨きをしたのはいつなのか、悪夢を見たのはいつなのか。

悪夢の内容は覚えている。母に「わたしを悪者にしたいの!?」とキレられる夢。実際全く同じ言葉で何度もキレられていた。現実にキレられていた時と同じ場所、以前住んでいたマンションのリビング、逆光、為す術もなくただ苦痛に耐えてカーペットに座っている私。起きた時私は呻きながらベッドを叩いていた。

夢にまで昔の事が出てくるのは最悪な事だ。どれだけ現実でその事を忘れようと踠いても夢はコントロール出来ない。

夢に出ない方法は死ぬしかない。

いつも枕の上に涎防止の為のタオルを引いて寝ているのだがそのタオルの上に剃刀と包丁を持ってきて腕を切った。

包丁は殆ど切れなかった。度胸があれば普通の包丁でも自分で自分の腕を切り落とせるものなのだろうか。骨って切れるのかなぁ。

結局いつもの剃刀でゆっくり腕を切っていた。ゆっくりでしか切れない。角度をつけてスパッと切った方が深く切れるのは知っているのだが自分の思った以上に切れてしまうので怖い。こういうところが本当にビビりだと思う。脂肪層なんて何年も見ていない。血が流れたらOK。血がそこに留まってるだけはイライラする。

 

とにかく情緒不安定だ。部屋から出る元気は無く、クローゼットの中にビニール紐があるからそれでドアノブ首吊りでも試してみようか、でも首吊りは何度も失敗してるし"落ちた"事がなく苦しいだけだからまた失敗しそうだな怖いな、という考えがぐるぐる。

飛び降りに行く元気もない。まず飛び降りに行くにはある程度身なりを整えないと不審がられる気がする。髪を梳かして外出着に着替え電車に乗って11階建のマンション(私が以前住んでいたマンション。私が母に怒鳴られていたマンション)まで行き、セキュリティの甘さを確認したら誰にも不審がられないように一番上までエレベーターで上がってそこから駐車場に向かって投身━━出来るのか?このビビりな私が。

10代の時、このマンションから投身自殺をしようとした事がある。しかし元々高所恐怖症な事もあって下を見ただけで足が竦み飛べなかった。話は逸れるがこのマンションで実際に投身自殺をした人を見た事がある。マンションの住人ではなかったらしい。黄緑色のチェックのパジャマを着ている男性だった。朝、小学校に行く時に見たのだ。駐車場に横たわる黄緑色のパジャマの男性を。私はそれを怖いともなんとも思わずああ飛び降りたのかなとだけ思って学校に行った。学校から帰ったらチェックパジャマの男性はいなかった。代わりに管理人さんが血を流したであろう水たまりがあった。行く時は血なんて流れてなかったのに、死体の下は血だらけだったのかなと思い、その時やっと少し怖いなと思った。

この事を後になって母に話したら自殺した人がいるのは覚えているような気がするが貴女がその死体を見るはずがないと言われた。理由は忘れた。とにかく母は私が死体を見た事を嘘にしたいらしい。見たのにな、死体。

 

母はよく「それは貴女の夢なんじゃないの?」「私は本当にそんなに何回も貴女に嫌な事を言った?」と訊く。夢ではないし何度も言ったと言っても中々信じてくれず、私が落ち込み自傷を何度もして弱りきると「貴女がそういうならそうなのかもしれないね」という。

父は母に反論が出来ない。だから私を助けてくれない。父は自分を守る事で精一杯なのだ。守れなかった時は酒を呑んで記憶を飛ばす。その醜態を見るのも私。保護者ってなんだろう。

 

とにかく疲れている。休みたい。休むって何だ、いつまで?いつになったらお風呂に入る?歯磨きは?何か一つでもしてしまうとまたこの世界に無駄に順応しようとしてる気がして嫌気がさす。私が順応したところで世界は優しくならない。弱者に優しくするほど世界は暇じゃない。

 

サティのジムノペディを聴きながらこれを書いた。婦人科や精神科などでよく流れているピアノ曲。婦人科では聴いたことあるけど私がかかっている個人のメンタルクリニックでは聴いたことはない。一応ピアノのBGMはかかっているのだが何故こんなアップテンポな曲を?とかなんでこんな短調な曲を選んだんだよけい気が沈むわ!という曲を何故か流している。

 

ジムノペディを聴くと落ち着くかというと、どうなんだろう。とりあえず聴いて文字を打ちまくったら自殺企図は薄れた。というより自殺する元気がない。元気がないと自殺出来ない。不思議な話だ。

昼間うちの向かいで工事が始まった。向かいなのにうちが揺れる。騒音が酷くてノイズキャンセリングイヤホンをつけて嶽本野ばらの「ツインズ」を何日か前まで読んでいた。しかしもう読んでしまった。「ツインズ」と一緒に買ったオーケンの「ロッキンホースバレリーナ」は完全に題名だけで買ったのだが冒頭から女と何人ヤれるかしか考えていないバカそうな(ていうかバカだ)なロックバンドギタリストが出てきて本を閉じてしまった。ここで閉じないでください女性読者の皆さん!と書いてあったが閉じた。そんなバカに付き合いほど私の心に余裕はない。

別に嶽本野ばらが一切性的描写が無いわけではい。というか無いほうが珍しい。「下妻物語」や「ミシン」は無い。今回読んでいた「ツインズ」は二箇所も男女の性的描写があった。これさえなければなぁ…と思うのだが作者の拘りなのだろうか。

嶽本野ばら作品は初期のものしかまだ読んでいないがお洋服のディティール、メゾンの話が入るので現実世界と離れられて良い。メゾンの話は現実の話でもあるのだろうけどいきなり自分の着ているお洋服のメゾンについて詳しく語るのだ。絶対。今の所どの作品も。そんな会話現実世界ではしないじゃん。ファッション業界ではするのかもしれないけどまあする機会ない人の方が圧倒的に多いじゃん。だから好き。現実的ではない現実を織り込んだ話だから。

とにかくオーケンの作品が受け付けられなくなったので急いで嶽本野ばら版の「おろち」をポチッた。楳図かずおの漫画を小説にしたものらしい。楳図かずお作品でもお洋服のメゾンの話は出てくるのだろうか。

 

なんだか沢山書き過ぎて訳がわからない日記になってしまった。明日私は誕生日を迎えるので事前に寿司屋(回る方の。回らないのは逆に食べられない貧乏舌)に家族で行こうと決めていたのだがこんな調子でいけるのだろうか。最近痩せ過ぎてしまいこのままではお寿司を食べても消化出来ずまた鼻からチューブを入れて内容物を取ってもらう羽目になる!と思いお菓子を詰め込んだりしたのだがお寿司を食べないならそんな事しなくて良かったなぁとも思う。40キロを切っていたと思われる脚は流石に細かった。しかし顔は痩せないんだよな、うまくいかない。

 

サティを聴きながら眠るように死にたいと思っている乙女達はこの世にどれくらいいるんだろう。白百合に囲まれて一等好きなお洋服に身を包みサティを静かに流しながら手を胸あたりで組み、段々睡魔に襲われ二度と目が醒める事がない━━━

お年寄りがピンピンコロリに憧れるというなら、私は白百合に囲まれ眠るように死ぬ事に憧れる。